2020年、省エネ建築が地域経済を動かす
- 18/01/05
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2020年と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。多くの人は、「東京五輪・パラリンピックが開催される年」と答えると思う。
東京五輪・パラリンピックは、新国立競技場や選手が滞在する選手村など、関連施設を整備する工事が「五輪特需」とも言われている。建築業界にとっては大きなイベントだが、もう一つ重要なイベントがある。「省エネ基準の適合義務化」だ。
建築物で確保すべき主な性能には、省エネ性能と並び、耐震性能がある。耐震基準を満たさない建築物は建てられないのが常識だ。
では省エネ基準はどうか。2017年3月までは、基準を満たさなくても建てることができた。2012年時点では、省エネ基準を満たす住宅は5%しかないという“お寒い”状況だった。
既存住宅の省エネ基準への適合状況(2012年時点)。次世代省エネ基準(1999年に定められた省エネ基準の通称)の適合は5%しかなく、無断熱が39%を占める(資料:国土交通省の資料を基に日経BP総研 社会インフラ研究所が作成)
しかし、このような状況は変わりつつある。2016年11月に発効したパリ協定で、日本は温室効果ガスを2030年度に2013年度比マイナス26%とすることを約束した。その実現のためにも、省エネ建築はどんどん増やさなくてはならない。
新たに制定した「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」に基づき、2017年4月から、これまで野放図だった建築物の省エネ性能に基準適合が求められるようになった。基準を満たさない建築物は、建築確認申請が通らず、着工できなくなる。
建築物省エネ法の規制措置。常温倉庫や車庫など「空気調和設備を設置する必要のない建築物」や文化財、仮設建築物は適用除外(資料:日経BP総研 社会インフラ研究所)
省エネ建築で健康になる!?
建築物の省エネ化は、高断熱・高気密化から始める。窓や外壁、屋根など「外皮」の断熱性能を向上させて出入りする熱を減らし、室内を快適にする。昼夜や部屋間の温度差が小さくなるので、ヒートショックのリスクが抑えられ、結露によるダニやカビの発生も少なくなる。最近の研究では、健康の維持に効果があることも明らかになっている。
高断熱・高気密化した建築物は、夏場は外から熱を入れにくくし、冬場は内から熱を逃さない。そのため、冷暖房のエネルギー消費量を削減する効果が見込める。庇などで日射をコントロールすることも有効だ。こうした建築的な配慮をした上で、高効率な空調や換気、給湯、照明といった設備機器を採用すれば、エネルギー消費量をさらに減らすことができる。
エネルギーの需要が減ると、供給を減らすことも可能になる。日本はエネルギー資源を海外から輸入する化石燃料に頼っている。2011年の東京電力・福島第1原子力発電所の事故以降、世論は原発再稼働にも慎重だ。それだけに、省エネ建築の普及は切迫した課題と言える。
2020年までに、全ての新築建築物は省エネ基準に適合するようになる。ただ、これまで適合を義務化してこなかったため、世の中は省エネ基準に適合しない既存建築物であふれている。これらを省エネ建築に改修する必要がある。
2020年は東京五輪・パラリンピックが開催されるとともに、全ての新築建築物に省エネ基準の適合が義務化される(写真:日経BP総研 社会インフラ研究所
地域に目を向けてみたい。
建築物の省エネ化を進めると、供給するエネルギーが少なく済む。化石燃料や原子力に頼らず、域内に整備した太陽光や太陽熱、水力、風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーで需要を賄えるようになるかもしれない。地域に適した複数の再生可能エネルギーをうまく組み合わせることができれば、域外からのエネルギーの輸入コストをゼロにすることも可能になるだろう。
域外に流出していたお金が域内で回るようになると、地域の産業に多くの投資がもたらされる。より高性能、より高付加価値を目指した技術革新や製品開発なども期待できる。なにより、省エネ建築が普及すれば、健康な人が増えて医療費の負担が抑えられ、社会保障費の減少につながる。
エネルギーの地産地消は、エネルギーの消費効率を改善する省エネ建築の普及と両輪で進めていかなければならない。
省エネ建築は、地球温暖化を防止するだけでなく経済効果も生み出す。これが、省エネ建築が地域経済を動かす理由だ。
建築のプロの中でも、省エネ建築に前向きに取り組んでいる人とまだ前向きにはなれない人が拮抗している。上のグラフは、日経アーキテクチュア読者203人にこの春実施した調査結果から(資料:日経BP総研 社会インフラ研究所)
ただ残念なことに、現時点では省エネ建築に対する発注者のニーズがそれほど高くないため、省エネ建築に積極的に取り組もうという意識が設計者に浸透していない。省エネ建築は設計の自由度を阻害すると捉える風潮もある。規制措置の対象ではない300m2未満の建築物を主に手掛ける設計者にとって、「適合義務化はまだ先だ」という消極的な姿勢も目立つ。
省エネ建築は設計者の意識が変わらなければ普及しない。日本にとって、一日も早く、省エネ建築が当たり前の社会になることを願いたい。(日経アーキテクチュア「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
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